大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和35年(ネ)473号 判決 1961年10月31日

判  決

東京都葛飾区本田立石町四百五十番地

控訴人

大木貞次

右訴訟代理人弁護士

伊藤清人

同都同区町二百六十番地

被控訴人

長野栄子

右訴訟代理人弁護士

岡田実五郎

佐々木煕

右当事者間の昭和三十五年(ネ)第四七三号建物所有権移転登記等請求控訴事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人から金八十万三千五百円及びこれに対する昭和二十六年七月一日から昭和三十三年七月十九日まで年五分の割合による金品の支払を受けると引換に、被控訴人に対し別紙目録記載の家屋の所有権移転登記手続並びにその明渡をせよ。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを五分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述(中略)は、被控訴代理人において、

(一)  控訴人の被控訴人に対する請負代金の請求と本件第二家屋の引渡とは、同時履行の関係にあるから、たとい、控訴人が被控訴人に対し確定判決に基く請負代金請求権を有しているとしても、被控訴人は控訴人から末だ右家屋の引渡を受けていないから、その引渡を受けないかぎり、その請負代金の支払を拒絶し得るものと解すべきである。而して被控訴人は右判決当時末だ本件第二家屋の引渡を受けていなかつたから、請負代金に対してもその利息(遅延損害金)の支払義務はないのである。

然しながら、前記確定判決の存する関係上遅延損害金の支払義務があるとしても、被控訴人は控訴人に対し、昭和三十三年七月十九日右判決に基く請負残代金八十万三千五百円とこれに対する昭和二十六年七月一日から昭和三十三年七月十九日まで年五分の割合による遅延損害金十八万四千五百七十五円、合計金百八万八千七十五円を弁済のため現実に提供したが、控訴人は家屋を訴外大木合資会社へ譲渡したとの理由でその受領を拒絶した。従つて、控訴人はこれにより受領遅滞の責を負うものというべきであるから、被控訴人は爾後その遅延損害金の支払義務はない。

(二)  控訴人の後記主張に対し、控訴人主張の各内容証明郵便が到達したことはこれを認めるが、その余の事業は否認する。被控訴人はいずれも控訴人の指定の日時にその要求額を持参して指定の場所に赴いたが、控訴人が同所に居合せなかつたので、更に控訴人の自宅に赴いたところ、控訴人はその受領を拒絶した。

而して請負代金の請求と請負家屋の所有権移転登記並びに引渡等は同時履行の関係にあるところ、

(イ)  本件第二家屋と第一家屋とは一棟の建物として、家屋番号五五九番六建坪二十七坪八合七勺、二階二十六坪八合七勺として、昭和三十二年四月十日右訴外会社のため保存登記がなされており、且つ、訴外片山正男に対する金百万円の債権担保のため、順位一番の低当権設定登記がなされており、

(ロ)  前記訴外会社は控訴人を債務者として、昭和三十五年三月二十三日右建物に対し占有移転禁止の仮処分の執行をなしているのである。

従つて、控訴人は被控訴人に対して前記請負代金の請求をするには、本件第二家屋の所有権移転登記手続の準備をするだけでは足りず、右仮処分執行の解放、訴外会社のための前記保存登記の抹消(この登記は二重登記として当然無効ではあるが、一登記一用紙主義の建前から、これを抹消する義務がある。)等の準備をした上、被控訴人に対し前記請負代金の請求をしなければ、控訴人の側における履行の提供があつたものとはいえないにも拘らず、控訴人は前記内容証明による催告当時、右仮処分執行の解放手続、二重登記の抹消登記手続はおろか、本件第二家屋の所有権移転登記手続の準備さえしていなかつたのであるから、被控訴人は仮に控訴人の催告に応じなかつたとしても、何らの遅滞の責に任ずべきではない。

(三)  被控訴人としては、控訴人が本件第二家屋を負担のない状態で引渡をしないかぎり、控訴人に対しては弁済供託の必要を認めないのであるが、被控訴人は未だ請負代金の弁済供託をしていないのであるから、本訴請求が無条件で許されないとすれば控訴人に対し前記確定判決に基く請負残代金八十万三千五百円又はこれに昭和三十三年七月十九日までの遅延損害金を合せた金百八万八千七十五円の支払と引換に本件第二家屋の所有権移転登記手続を求めるものであると述べ、

控訴代理人において、

(一)(い)  控訴人は昭和三十五年九月七日到達の内容証明郵便をもつて被控訴人に対し、本件第二家屋の所有権移転登記手続並びに引渡の用意があるから、同月十二日午前十時東京法務局葛飾出張所において工事代金八十万三千五百円及びこれに対する昭和二十六年七月一日以降当日まで年五分の割合による損害金の支払と同時に前記所有権移転登記手続並びに引渡をするから同日時同所に出向かれたく、若し、被控訴人が当日出向かない場合には本件第二家屋の所有権移転手続並びにその明渡請求権を放棄したものと認める旨の通知をなした上、右所有権移転登記手続に必要な書類を持参して同月十二日午前十時から十二時まで前記出張所において待機していたが、被控訴人は当日遂に来なかつた。

(ろ)  そこで控訴人は同年十一月五日到達の内容証明郵便をもつて再度被控訴人に対し、同月九日午前十時前記出張所において請負代金及び損害金合計金百三十万三千五百四十円の支払と同時に本件第二家屋の所有権移転登記手続をするから、同日時同所に出向かれたく、当日その支払がないときは、請負契約に基き控訴人において本件第二家屋の所有権を取得する旨の通知をなし、右登記手続に必要な書類を準備して当日午前十時から十二時までの間前記出張所において待機していたが、被控訴人は前同様遂に来なかつたのである。

(は)  以上のとおり被控訴人は前記請負代金の支払をしないから、控訴人は適法且つ最終的に本件第二家屋の所有権を取得した。よつて被控訴人の本訴請求は失当である。

(二)  仮に控訴人が被控訴人に対し本件第二家屋の所有権移転登記手続並びに明渡の義務があるとしても、控訴人は昭和三十一年三月十五日訴外大木合資会社に対する債務の代物弁済として右訴外会社に対し、被控訴人主張の第一並びに第二家屋を一個の建物としてその所有権を移転してその引渡をなし、右訴外会社は同日右建物の所有権保存登記をなしたのであつて、現在控訴人は本件第二家屋の所有権を有しないから、被控訴人の本訴請求は失当である。

(三)  仮に右主張が理由がないとしても、控訴人は昭和二十六年六月三十日頃当時未成年であつた被控訴人の法定代理人たる父長野常次郎から、その建築工事が九分通り進捗していた本件第二家屋につき工事中止及び占有移転その他現状変更禁止の仮処分執行を受けたため、控訴人は被控訴人に対し本件第二家屋の所有権移転その他現状変更ができなかつたものであり、且つ、控訴人は本件第二家屋の工事完成の暁その内の一戸について権利金四十万円及び賃料一ケ月金五千円の約定による賃貸予約も解約せざるを得ざるに至り、控訴人は本件第二家屋による収益をあげることができなかつたのであるから、被控訴人の損害賠償請求は失当である。

(四)  仮に然らずとするも、本件第二家屋の敷地である東京都葛飾区本田立石町五百五十九番地六十四坪七合の土地は訴外大木合資会社の所有であり、同会社と被控訴人との間には右土地に関する賃貸契約が存在しない。従つて本件家屋の賃料相当額を定めるに当つては、借地権の存在しない建物として扱うべきである。その相当賃料額としては、

(い)  前記仮処分執行により、工事中であつた本件第二家屋は未だ荒壁のままで内部の畳、建具等がないまま放置されていたのであつて、その再建築費を坪当り金二万五千円とすれば、残価率六〇%(耐用年数を二十年とし、昭和二十六年七月から昭和三十四年十一月まで既に八年五月を経ている。)として坪当り金一万五千円となり、これに建坪三十三坪を乗じた本件第二家屋の価格は金四十九万五千円となるから、この価格に基いて賃料額を算定するときは、昭和三十四年十一月における賃料額は一ケ月金九千七十五円、昭和三十三年七月における賃料額は一ケ月金七千五百六十二円となるから、右金額をもつて一ケ月当りの損害金とすべきである。

(ろ)  仮に前記再建築費を坪当り金三万円とすれば、昭和三十四年十一月当時の価格は金五十九万四千円(坪当り金一万八千円)となるから賃料額は一ケ月金一万九百九十円であり、昭和三十三年七月当時の賃料額は一ケ月金九千七百五十円をもつて相当とする。

以上のように主張した。

証拠(省略)

理由

按ずるに、昭和二十五年五月頃本件当事者間において、訴外長野栄次郎所有にかかる東京葛飾区本田立石五百五十九番地上の被控訴人主張の第一ないし第三家屋を順次建築する旨の請負契約が締結され、控訴人において第三家屋、第一家屋、第二家屋の順序で順次着工し、被控訴人主張の頃第三家屋、第一家屋の順に完成し、本件第二家屋はその完成直前昭和二十六年六月下旬頃控訴人主張の仮処分の執行によりその工事が中止されるに至つたこと、控訴人が昭和二十九年六月頃被控訴人を相手どつて東京地方裁判所に対し右請負契約に基く残代金請求訴訟を提起し、同庁昭和二十九年(ワ)第八二三〇号請負代金請求訴訟事件として係属し、その結果昭和三十二年二月七日同裁判所において被控訴人に対し請負残代金八十万三千五百円及びこれに対する昭和二十六年七月一日からその支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を命ずる旨の判決言渡があり、右判決は同年九月五日確定するに至つたことはいずれも当事者間に争がない。

而して成立に争のない甲第一号証の一によれば、控訴人は被控訴人に対し前記請負契約に基く残代金は金九十一万三千五百円であると主張してその支払を求めたのであるが、右判決においては第一並びに第三の家屋の代金は既に全部支払済みであり、本件第二家屋に対する請負代金が金八十万三千五百円残存するのみであると認定して被控訴人に対してその支払を命じ、控訴人の残余の請求を棄却したものであることが認められ、他に何らの反証がない。ところで、他に特段の約定の認められない本件においては、請負契約の性質上、その引渡があるまでは、家屋の建築が完成してもなおその所有権は請負人が保有し、請負代金の支払があるまでは、その引渡、所有権移転並びに名義の変更を拒絶し得べきものであるところ、(証拠)に弁論の全趣旨を綜合すれば、本件第二家屋は前記仮処分の執行による工事中止後においても、控訴人はその工事を続行してその後間もなくこれを完成したが、被控訴人に対してその引渡をしなかつたこと、従つてその所有権は依然として控訴人がこれを保有して来たこと、被控訴人の代理人長野常次郎は昭和三十三年七月十九日控訴人に対し、前記確定判決に基く請負残代金八十万三千五百円及びこれに対する同日までの遅延損害金(その合計額が金百十万円に満たないことは計算上明らかである。)として金百十万円余を控訴人に現実に提供したが、控訴人がその受領を拒絶したことが認められ、他に特段の反証がない。

よつて控訴人の主張につき按ずるに、

(一)  控訴人は前記請負契約に附随して、前記第一家屋については被控訴人の所有名義とし、被控訴人がこれを担保として他から資金を借受け、これをもつてその請負代金の支払にあてることとし、もし被控訴人においてその資金の借入れができず、従つて右請負代金の支払ができないときは、被控訴人は控訴人に対し、右請負代金債務の代物弁済として第一家屋の所有権を移転する旨の特約があつたところ、被控訴人はその請負代金の支払をしなかつたから、控訴人は前記特約に基き昭和三十一年三月三日代物弁済として前記第一家屋の所有権を取得し、又本件第二家屋は原始的にその所有権を取得したから、これにより前記請負契約上の双方の債権債務は最終的に決済された。従つて被控訴人に対し最早請負契約上の義務の履行を求め得べき筋合ではない旨主張するが、原審における控訴本人の供述中、控訴人主張の代物弁済の特約があつたとの主張にそう部分は、原審証人長野常次郎の証言と対照して措信し難く、他に右事実を認めしめるに足りる証拠がないのみならず、前記請負契約に基く当事者双方の債権債務が最終的に決済され、控訴人が最終的に本件第二家屋の所有権を取得したとの確証はない。却つて(証拠)によれば、前記第一並びに第三家屋は昭和二十六年四月以前に完成し、被控訴人はその請負代金を支払つて控訴人からその引渡を受けて所有権を取得し、同年四月二十三日第一家屋につき家屋番号一〇八七番として所有権の保存登記をなしその後家屋番号は一〇八七番の二と変更登記されたこと、(かかる登記が存在することについては当事者間に争がない。)又第三家屋については、昭和三十三年八月十九日家屋番号五五九番の九として被控訴人においてその所有権保存登記をなしたこと、本件第二家屋は前記第一家屋に接して建てられているが、第一家屋の完成後に着工された全然別個の建物であること、以上の事実が認められるのであつて、原審における控訴本人の供述中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

なお、控訴人は昭和三十一年三月三日控訴人が被控訴人から前記第一家屋並びに本件第二家屋の所有権を取得した結果、請負代金債権は全部消滅するに至つたので、東京地方裁判所昭和二十九年(ワ)第八二三〇号請負代金請求事件の訴訟を取下げるべきであつたが、訴訟代理人との連絡が不十分であつたため、そのまま訴訟が進行し、昭和三十二年二月七日前記判決言渡があり、該判決が確定したのであつて、本来右判決は無効であると主張するが、それだからといつて右判決を当然無効となすべき何らの理由がないのみならず右訴訟においては、控訴人が被控訴人との間における全請負代金の残額金九十万三千五百円の請求をなしたが、判決においてはその一部が棄却され、金八十万三千五百円について勝訴となり、該判決が確定するに至つたことは既に説示したとおりであり、又控訴人がその主張のように訴を取下げないで請求を維持し、被控訴人に対し請負契約に基く残代金債務の履行を求めた結果前示確定判決を見るに至つた以上、右確定判決により被控訴人の控訴人に対する前記債務の支払義務が確定し、その結果として、控訴人は右残代金の支払と引換に被控訴人に対し本件第二家屋の所有権を移転すべき義務をも免れることができなくなつたものと解するを相当とする。従つて被控訴人が右代金債務の弁済提供をした昭和三十三年七月十九日までの間において、他に右確定判決は基く控訴人の債権が消滅したとの特段の事情の認められない本件においては、控訴人は本件第二家屋の所有権を有する限り、被控訴人の右債務の弁済と同時に本件第二家屋の所有権を被控訴人に移転すべき義務を免れることはできないものといわなければならない。

されば控訴人が昭和三十一年三月三日最終的に本件第二家屋の所有権を取得したから、最早被控訴人は本件第二家屋の所有権移転登記並びに引渡を求めることはできないとの主張は理由がない。

(二)  次に控訴人は、昭和三十一年三月十五日控訴人が前記第一家屋並びに第二家屋を一棟一個の建物として訴外大木合資会社に対する債務の代物弁済としての所有権を譲渡し、その所有者となつた同会社において同日本件第二家屋を含む右建物につき同会社名義で所有権の保存登記を了しているから、控訴人としては、本件請負契約に基く義務として、本件第二家屋の所有権を被控訴人に移転することができなくなつた旨主張するから、この点について判断をする。

前記第一家屋並びに本件第二家屋につき、これを一棟一個の建物として、昭和三十年十二月三十日控訴人が新築届をなし、家屋番号五五九番の六として家屋台帳に登載されたこと並びに昭和三十一年三月十五日訴外大木合資会社の所有名義で家屋番号五五九番の六木造瓦葺二階建居宅兼店舗一棟建坪二十七坪八合七勺、二階二十六坪八合七勺として保存登記がなされていることは当事者間に争がない。而して控訴本人は、原審において控訴人が訴外大木合資会社に対する債務の代物弁済として同日同会社に対し本件第二家屋の所有権を移転した旨を供述しているのである。

然しながら、控訴人が昭和二十八年八月二十一日本件第二家屋について新築届をなし、これにより本件第二家屋は家屋番号五五九番の二として家屋台帳に登載されたこと、被控訴人のなした前記仮処分登記により、本件第二家屋については昭和三十三年七月二十四日職権により控訴人のため家屋番号五五九番の二として所有権保存登記がなされたことは当事者間に争がなく、(証拠)によれば、被控訴人所有の前記第一家屋については既に昭和二十六年四月二十三日家屋番号一〇八七番木造瓦葺二階建居宅一棟建坪九合四勺、二階九坪九合四勺として被控訴人の所有名義で保存登記がなされたが、その後同月三十日家屋番号一〇八七番の二木造モルタル塗瓦葺二階建店舗兼居宅一棟として更正登記されたこと、被控訴人は前記第一家屋の保存登記をもつて当時未登記であつた第三家屋の保存登記も兼ねさせようと考えた上、前記第三家屋を第一家屋の増築部分として、昭和二十九年十二月二十三日木造瓦葺二階建店舗兼居宅一棟建坪十八坪、二階十四坪と変更登記をなしたこと(以上各登記の存在することについては当事者間に争がない。)右変更登記は前記第三家屋の坪数のみが表示されていたこと、その後昭和三十三年八月十九日、右変更登記は誤つているとして被控訴人は前記第一家屋(家屋番号一〇八七番の二)につき木造瓦葺二階建店舗兼居宅一棟建坪九坪九合五勺、二階九坪九合四勺と更正登記をなし従前通り建物の実体に符合させ、且つ、これとは全然別個の建物であり未登記であつた被控訴人所有の第三家屋については、新たに家屋番号五五九番の九木造瓦葺二階建店舗居宅一棟建坪十八坪、二階十四坪として被控訴人の所有名義で保存登記をなし、第三家屋につき実体に符合する登記をしたこと、以上の事実が認められる。原審における控訴本人の供述中右認定に反する部分は措信し難く、他に特段の反証はない。

以上の事実に徴すれば、昭和二十九年十二月二十三日第一家屋につきなした変更登記はもとより第三家屋の登記としてその効力はなく、又その実体にそわない坪数の表示となつたとはいえ、適法になされた第一家屋の登記に基くものであるから、未だ第一家屋の登記たるを失わないものというべく、その後昭和三十三年八月十九日の更正登記により再びその実体に合致するに至つたものであるから、現に第一家屋の登記としてその効力を保有するものというべきである。又家屋番号五五九番の九による保存登記は未登記の第三家屋に対する新たな登記としてもとより有効であることは言をまたない。

然らば、第一家屋並びに本件第二家屋を一個の建物であるとして、昭和三十一年三月十五日家屋番号五五九番の六として訴外大木合資会社のためになされた前記保存登記は既に有効に存する第一家屋に対する二重登記としてその効なく、又本件第二家屋についても、昭和二十八年八月二十一日当時の所有者たる控訴人により適法になされたものと認められる建築届に基き家屋台帳に適式に登載されたものとなすべき家屋番号五五九番の二とその家屋番号を異にするのみならず、その建物の坪数においても著しく実体と相違するものというべきであるから、たとい後になされた登記であるとはいえ、本件第二家屋につき前記家屋台帳の記載に基き適法になされたものと認むべき家屋番号五五九番の二による保存登記との関係においても、前記家屋番号五五九番の六による保存登記は本件第二家屋の保存登記としてその効力を認めることはできないものと解するを相当とする。従つて仮に原審における控訴本人の供述どおり、昭和三十一年三月十五日控訴人が本件第二家屋の所有権を訴外大木合資会社へ移転したとしても、前記家屋番号五五九番の二の登記簿上その所有名義を移転しない限り、本件第二家屋屋の所有権移転を前記番号五五九番の六による訴外大木合資会社名義の保存登記ある故をもつて、正当な利害関係人たる被控訴人に対抗し得ないものといわなければならない。従つてこの点に関する控訴人の主張は採用し難い。

(三)  更に控訴人は、昭和三十五年九月七日及び同年十一月五日到達の各内容証明郵便をもつて被控訴人に対し、同年九月十二日及び同年十一月九日東京法務局葛飾出張所において前記確定判決に基く請負代金八十万三千五百円及びこれに対する昭和二十六年七月一日から年五分の割合による遅延損害金の支払と引換に本件第二家屋の所有権移転登記手続をなし、かつその引渡をなすべき旨の催告並びにこれに応じないときは控訴人において最終的に本件第二家屋の所有権を取得する旨の通告をなし、当日いずれも控訴人は右所有権移転登記手続に必要な書類を準備して前記出張所に赴き控訴人側の履行の提供をしようとしたが、被控訴人がこれに応じなかつたから、本件第二家屋の所有権は確定的に控訴人の所有に帰した旨主張し、右各内容証明郵便が控訴人主張の日被控訴人に到達したことについては当事者間に争がないけれども、(証拠)によれば、被控訴人の代理人長野常次郎は控訴人の指定した昭和三十五年九月十二日午前十時前記確定判決に基く請負残代金八十万三千五百円及びこれに対する遅延損害金(同日までの合計額が金百二十万円に満たないことは計算上明らかである。)として金百二十万円を準備して前記出張所に赴いて弁済提供しようとしたが、控訴人に出会せず、やむなく控訴人方に赴いて右金員を支払おうとしたが控訴人はその受領を拒絶したこと、又同年十一月九日午前十時にも同様確定判決に基く請負残代金及び遅延損害金(同日までの合計額が金百三十万円に満たないことは計算上明白である。)として金百三十万円を準備して前記出張所に赴いたが、控訴人に出会して弁済提供をすることができず、同様控訴人方赴いて右金員を支払おうとしたが、再び控訴人からその受領を拒絶されたことを認めるに足り(中略)他に右認定を覆えすに足る証拠はない。従つて控訴人の右主張も遂に採用し難い。

而して請負代金の支払と請負契約に基き建物の引渡(所有権移転)並びにその所有名義の移転は同時履行の関係にあるところ、被控訴人も自認するとおり、被控訴人は前記のとおり控訴人に対して弁済供託をしていないのであるから、本件第二家屋の引渡並びに所有権移転登記手続を求めるには、同時にその請負代金の支払をなすを要する。而して前記甲第一号証の一によれば、被控訴人は前記訴訟において控訴人の請負残代金請求に対し、未だ本件第二家屋の引渡を受けていない旨を主張して同時履行の抗弁を提出することをせず、無条件で控訴人に対する請負残代金八十万三千五百円とその遅延損害金の請求を認容した判決言渡を受けたのであつて、そのまま右判決を確定せしめた以上被控訴人は控訴人に対して本件第二家屋の所有権移転並びにその登記手続を求めるには、これと引換に右確定判決に基く債務の支払をなすを要するものとする。

而して被控訴人は既に説示したとおり、昭和三十三年七月十九日控訴人に対し適法に前記確定判決に基く残代金及び遅延損害金の弁済提供をなし、控訴人がその受領を拒絶したものであるから、これにより被控訴人は爾後その遅延の責に任じないものといわなければならない。従つて被控訴人が前記確定判決に基く債務元金八十万三千五百円及びこれに対する昭和二十六年七月一日から昭和三十三年七月十九日まで年五分の割合による金員の支払をするのと交換に、控訴人は被控訴人に対し本件第二家屋の明渡をなし、且つ家屋番号五五九番の二による保存登記に基き本件第二家屋の所有権移転登記手続をなすべき義務あるものというべきである。

以上のとおりであるから、被控訴人が無条件で又は金八十万三千五百円のみの支払で本件第二家屋の明渡並びに所有権移転登記手続を求め得べきであるとの主張は失当である。

なお、被控訴人は前記債務の支払をして始めて本件第二家屋の所有権を取得するのであるから、未だその支払をしていない現在控訴人に対し、昭和三十三年七月二十日から本件第二家屋に対する賃料相当の損害金を請求し得べきものとする被控訴人の主張も失当である、従つて右損害金の請求並びにその額の算定に関する控訴人の主張についてはその判断をする必要がない。

以上のとおりであるから、被控訴人の本訴請求は主文第二項の限度においてこれを認容すべく、その余は失当としてこれを棄却すべきである。従つてこれと異なる原判決はこれを変更すべきものとし、民事訴訟法第九十六、第八十九第、第九十二条を適用して主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第四民事部

裁判長裁判官 谷本仙一郎

裁判官 堀 田 繁 勝

裁判官 野 本  泰

目録(省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例